ブランディングに携わっていると、しばしば「他社研究」を求められます。カルティエやヴァンクリーフ&アーペル、ティファニーといった海外メゾンと、日本のジュエリーブランドは何が違うのか。歴史や規模、予算の差はもちろんありますが、最も大きな違いは「誰に向けてブランドをつくっているか」にあります。
日本ブランドの傾向――ペルソナに縛られる
日本の多くのブランドは、ターゲットを細かく設定して戦略を立てます。
「20代のOL向けに可愛いプチジュエリー」
「30代向けに落ち着いたデザイン」
「40代以上には大人っぽさ」
といった具合に、年齢層をペルソナで区切り、その層だけに訴えかけようとします。
結果として、20代向けのブランドは50代の人が見ても「自分には関係ない」と感じ、逆に50代向けのブランドには若い層が入っていきにくい。ブランドが「ライフステージに依存した一時的なもの」となりがちです。
欧米メゾンの考え方――ブランドの人格を貫く
一方、カルティエやヴァンクリーフ&アーペル、ティファニーなどの欧米メゾンは、年齢でブランドを区切りません。
20代が行っても「手に届くもの」があり、50代が行っても「ふさわしいもの」がある。
その秘密は、顧客に合わせるのではなく、ブランドの人格を徹底的に明確にしていることにあります。
- カルティエは「気高いエレガンスと普遍性」
- ヴァンクリーフ&アーペルは「詩的な幸運と自然のモチーフ」
- ティファニーは「ニューヨークの洗練と愛の象徴」
このキャラクターを一貫して守ることで、顧客が年齢にかかわらず「その人格と会話できる」ブランド体験を提供しています。
計算されたクリエーション
では彼らは感性だけで自由にデザインしているのでしょうか。答えは逆です。
欧米メゾンは膨大な歴史的アーカイブ、顧客データ、文化資本をもとに緻密な計算をしています。どんなモチーフを選ぶか、どのフォルムを継承するか、すべては「ブランドの人格」に沿って厳密に選ばれている。
つまり「計算された一貫性」があるからこそ、デザイナーは自由に創造できるのです。
日本ブランドが学べること
ペルソナを細かく設定すること自体が悪いわけではありません。しかしそれだけではブランドは長続きしない、または限定的になってしまうのかもしれません。
本当に必要なのは、ブランドの人格をはっきりさせることです。
可愛いのか、かっこいいのか。
女性的なのか、男性的なのか。
曲線的なのか、直線的なのか。
こうしたキャラクターを明確にすることでブランドは世界観を持ち、顧客との「対話の相手」となります。その結果、世代を超えて愛されるブランドが育っていくのです。
まとめ
ブランドは「誰に売るか」ではなく「自分は何者か」を示す存在です。
日本のブランドが欧米メゾンから学べる最大の教訓は、顧客を追いかけるのではなく、ブランドの人格を貫くこと。
それが計算とクリエーションを両立させ、世代を超えて顧客の心に届くブランドの力となるのです。
そんなことを教訓に、自分のやるべき商品群を考えてみたいと思います。
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