技術・美術・芸術──「ただ美しい」を超えるために

ジュエリー制作における「技術」「美術」「芸術」の違いを探ります。
ピアノで培った感性と職人としての経験から、観察・文脈・本質を見つめる創作の哲学を綴ります。

目次

技術・美術・芸術とは何か

絵を綺麗に描けるようになりたいと思ったとき、絵の教室に通ったりします。
絵を書く技法を取得する、職人的な技術

次に、美しくまとめるための美術
技巧がより表現力を豊かにし、思い描いた絵を、描くことができます。
ただ、技巧が伴い思い描いたものが描けても、全部が芸術といえるわけではない、その通りだと魯山人の本を読んで納得しました。

芸術には、肝心なのは、物の本質を見る力、物の本質。

また、そのものを芸術という域に達するためには、技術をもって美術的なものを作る前の思考や段階、目的なのかメッセージなのか、その部分の方が大きく重要に考えます。

ピアノで身につけた基礎の記憶と、今ジュエリーで積み重ねている体験を手がかりに、
「どうすれば一点一点を芸術へと押し上げられるのか」を、考えてみました。

技術・美術・芸術の違い

技術(テクニック)

手順や道具、素材の理解、仕上げの均一さや耐久性がここで決まります。
ジュエリーでいうと、デザイン画から、どういう工程で作るかを考え、
平面図から立体を作り、メタルや石に合わせた手段で、一番美しく耐久性がよいものを作り上げる技。

美術(ビューティ)

比率、質感、光の扱い、装着時のバランスなどを通して、美しく整える術(わざ)です。
既存の語彙を用いて「美」を成立させます。

芸術(アート)

作品が固有の視点や問いを持ち、文脈の中で意味を発する段階です。
見る人の経験を新しく編み直す力を持ちます。

技術が弱ければ美は立ち上がらず、美術の語彙が貧弱であれば芸術は空回りします。
それぞれが支え合って初めて、全体が完成していくのだと思います。

ピアノで学んだ「基礎」と「限界」

私は幼少期からピアノを習っていました。叔母が先生だったこともあり、姉妹全員がかなり本格的に学んでいました。県外から来る先生による公開レッスンを受けたこともあります。

私の姉はピアノで高校・大学へ進みましたが、私は中学生の頃、進路を選ぶ時期に「勉強の道」を選びました。
先生に「ピアノの骨格ではない」と言われたこと、そして何より、舞台で演奏する本番があまり好きではなかったことが理由です。
クラシック音楽の世界は、優秀なピアニストが多く、需要にも限りがあります。
今思えば、当時の私は「美しく弾く」という、美術的な段階にいたのだと思います。

その先には、作曲者がどんな時代に、どんな気持ちで曲を作ったのかを学び、それをどんな表現で奏でるかを考える、芸術の段階があったはずです。

技術ばかりでなく、その先の段階の魅力を知っていたならば、続けてみるという選択肢もあったのかもしれないと、今になって考えたりします。

ジュエリーにおける「技術」と「感性」

今、私が携わるのはジュエリーです。

装身具は、素材や体温、光の反射によって表情を変えます。
技術を知らなければ、技術を活かすことはできません。

経験を重ねるほど、手は迷いを減らし、バランス感覚――プロポーション、逃げ寸、面の切り替え、光の拾わせ方――が確信に近づいていきます。

この積み重ねが「美術を強くする」営みであると感じています。

では、その先へ――
一点のジュエリーを芸術へと押し上げるには、どうすればよいのでしょうか。

結びにかえて

技術は必要条件です。美術は十分条件の半分。

そして芸術は、「世界の見え方」を作品に翻訳する行為だと思います。

見かけの均整だけでは、芸術には届きません。

だからこそ、もっと見て、もっと感じて、計算された要素を解き明かし続けるしかないのです。
そして、実生活の中でもできることがあります。

• 人や環境、社会を観察すること。
• 美しいものや琴線に触れる瞬間を大切にすること。
• 物の本質を見ようと心がけること。

この3つを積み重ねることが、創作の根っこを育てると信じています。

これからも私は、技術を磨き、美の語彙を増やし、文脈を設計し、本質を形にし、同じテーマを反復しながら、自分の言語を確立していきたいと思います。
そうして「美しい」は、いつか「意味のある美しさ」により変えていきたいと思っています。

その瞬間、ジュエリーは単なる装飾ではなく、人の時間と心に棲む芸術になるのだと信じています。

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この記事を書いた人

ジュエリーデザイナー26年
ジュエリー職人4年 CAD1年
ジュエリーブランドディレクター10年
製作が好きで飛び込んだジュエリー業界で様々な経験を積みながら
品があるデザイン、上質といえる技術を模索。
”静寂なる輝き”を極める旅を続けています。

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