デザイナーがデザインマネジメント論から得たものは

デザインの仕事は、長らく「感覚的で説明しづらいもの」と扱われてきました。
美しさ、違和感、気配、空気感。
どれも重要でありながら、数値や言葉にしづらく、
結果として組織の中では属人的な力として消費されがちです。

私自身、長年デザイナーとして経験を積む中で、
デザインを生み出すまでの、独自のやり方を仕事として評価されることはなく、
環境も整うこともなく、
個人としても、組織の中においても、デザイナーという仕事を、
デザイン理解の低い業界や組織の中で活かすことができない、
という問題に長らく直面してきました。

デザインマネジメント論との出会いは、その問題を解決してくれるもので、
これまでの霧が一瞬で晴れたように、言語化され、理論的に説明されているものでした。

本記事では、デザインマネジメントを組織の中で活かすということをまとめました。

目次

1.抽象的な仕事を「組織で機能する力」に変える思考法

抽象的な思考は、整理できる

デザインマネジメント論を学んで、最も大きかった気づきは、
抽象的な作業は、言語化され、実は説明できるものであった
ということでした。

発想、違和感、直感、世界観。
これらは感覚的なものですが、
・なぜそう考えたのか
・何を前提に判断しているのか
・どの軸で選択しているのか
を分解すると、構造として説明できることがわかってきます。

これは「感性を理屈に押し込める」という話ではありません。
感性が働く“条件”を整理する、という感覚に近いものです。

デザインは「管理」ではなく「意思決定の質」

デザインマネジメントという言葉から、
「管理」「統制」「効率化」を想像されることもあります。

しかし、デザインマネジメントとは
意思決定の質を上げるための仕組み
だということでした。

・何を作るか
・何を作らないか
・どのタイミングで世に出すか
・どこまで作り込むか

これらはすべて、デザインを含んだ経営判断です。
デザインマネジメント論は、その判断を
「感覚だけ」「経験だけ」に委ねないための思考の補助線を与えてくれます。

組織の中で、デザインを機能させる視点

もう一つ重要なことは、
良いデザインがあっても、組織が整っていなければ機能しない
という現実でした。

デザインの力を発揮するためには、
・適切な権限
・適切な評価
・適切な環境
・適切な対話の場
が必要です。

これはデザイナー個人の努力では解決できません。組織設計の問題です。

デザインマネジメント論は、
「デザインをする部署はなぜ必要なのか」
「なぜ空間を分ける必要があるのか」
「なぜ評価軸が異なるのか」
といった問いに、理論的な裏付けを与えてくれました。

2.なぜ今、デザインマネジメントが必要なのか

感覚や経験に頼った意思決定の限界

現代の企業環境では、
・正解が事前に決まっていない
・市場や価値観が高速で変化する
・過去の成功モデルが通用しにくい
という状況が常態化しています。

さらに、情報やアイデアが容易に得られる情報社会、AIの進化、デジタル化、などの環境の変化により、
アイデア自体は誰もが容易に得られる状況において、
企業や物を作る側は、より存在意義や、物の価値に重点を置かなければ
商品として、企業として、デザイナーとしての価値がなくなる、という現状があります。

このような環境下において
データや合理性だけでは判断できない局面が増え、
一方で「経験や勘」に頼りすぎると、判断理由を説明できなくなります。

この矛盾を抱えた状態で必要になるのが、
デザインマネジメントという考え方です。

3.デザイン室は何をするのか

制作部門ではなく「意思決定の質」を高める組織機能

前述したように、長らくデザイン室もない環境で、
デザインを行なってきました。
その環境を改善すべく、デザイン室なるものを、組織の中でつくる作業を行なっています。

デザイン室は、単に
「きれいなものをつくる部署」
「制作を担当する部門」
ではありません。

本質的な役割は、
組織が社会に対して提示する意味を定義し、意思決定の質を高めることです。

どんな商品をつくるのか。
なぜそれを今つくるのか。
それは誰の、どんな価値観に応えるのか。

こうした問い自体もデザイン室が扱います。

物のデザインだけではなく、意味のデザインを担う必要があります。
社会環境の変化によって、デザインの対象も広がりました。

なぜそれを選ぶのかを定義するデザイン思考をする

先に話したとおり、デザインマネジメント論では、
競争優位の源泉は「機能」や「価格」ではなく、
意味のイノベーションにあると考えます。

意味とは、
・なぜそれが存在するのか
・なぜ今それが必要なのか
・それは人のどんなビジョンに響くのか
という価値判断の軸です。

デザイン思考とは、形を考える前に、
この「意味」を問い直す思考でもあります。

デザインマネジメントが可能にする思考の翻訳

デザインマネジメント論は、
この問題に対する一つの解答を示します。

それは、
感性を排除するのではなく、翻訳することです。

デザイン室では、
・意味(Meaning)
・原則(Principle)
・文脈(Context)
という視点で思考を整理します。

なぜその選択なのか。
どの価値観に基づいているのか。
今はどの文脈で判断しているのか。

デザインブランドや、企業、その対象の存在意義、原則、文脈を明示することで、
活動全体のアウトプットが統一され、
全てが掲げる目的、理念(パーパス)に沿ったものになります。

こうして整理された思考は、
個人の感覚から、組織で共有可能な知的プロセスへと変わります。

4.デザイン室が担う3つの思考レイヤー

意味・原則・文脈により整理する意思決定プロセス

デザイン室が扱うのは、完成品だけではありません。

・意味の提案
・判断基準の設計
・選択肢の整理
・採用しなかった理由の言語化

これらを通じて、
「なぜこの決定に至ったのか」を後から説明できる状態をつくります。

これは、
意思決定のスピードよりも、
意思決定の質を安定させるための仕事です。

5.デザイン思考を「個人技」で終わらせない仕組み

属人性を組織の知的資産に変える方法

意味の提案には、必ず属人性が伴います。
それは欠点ではなく、前提条件です。

重要なのは、
属人性を放置するのではなく、
批判・検証・共有のプロセスに組み込むことです。

デザインマネジメントは、
個人のビジョンを、
組織が引き受けられる知的資産へと変換します。

効率化を重視する、従来からの企業内の社員の態度をマネジメント態度とすると、
意味のイノベーションをして物をデザインする前述したように、長らくデザイン室もない環境で、
デザインを行なってきました。
その環境を改善すべく、デザイン室なるものを、組織の中でつくる作業を行なっています。

デザイン室は、単に
「きれいなものをつくる部署」
「制作を担当する部門」
ではありません。

本質的な役割は、
組織が社会に対して提示する意味を定義し、意思決定の質を高めることです。

どんな商品をつくるのか。
なぜそれを今つくるのか。
それは誰の、どんな価値観に応えるのか。

こうした問い自体もデザイン室が扱います。

物のデザインだけではなく、意味のデザインを担う必要があります。
社会環境の変化によって、デザインの対象も広がりました。

効率化を重視する、従来からの企業内の社員の態度をマネジメント態度とすると、
意味のイノベーションをして物をデザインする態度は、デザイン態度と言われます。

デザイン態度においては、属人性を顕在化する方が良い結果がえられるのですが、
その理由としては、
人が社会において、幾つも立場があることを、
(例えば親としての自分、趣味友達の仲間の中の自分、兄弟としての自分、のような)
別々の社会的アイデンディティとして捉えると、
デザイン一つの判断におちても、多角的に捉え、物の見方が増えるためです。

自分の中に何人もキャラクターが存在することで、
物の判断の見方が何通りにもできる、
いろんな人のことを理解できるようになる、ということです。

選択肢を増やす思考と、選び抜く思考

新しい価値を生むには、
まずデザイン態度で問いを立て、選択肢を増やす必要があります。

その後で、
マネジメント態度に切り替え、
合理性・制約・現実性を考慮して選び抜く。

この順序を混同しないことが、デザインマネジメントの重要なポイントです。

なぜデザインマネジメントは経営に効くのか

デザインを意思決定装置として扱う視点

デザインマネジメントは、
デザインを「表現」ではなく、意思決定装置として扱います。

誰が関わっても判断がぶれにくい。
人が変わっても思想が残る。
説明できない決定が減る。

これは、短期的な効率よりも、中長期の企業価値に大きく影響します。

経営判断との役割分担を明確にする

デザイン室は、最終決定を行う部署ではありません。
決定権は、常に経営にあります。

デザイン室が担うのは、
・判断材料の質を高めること
・問いを整理すること
・選択肢を構造化すること

この分業によって、
経営判断はより強く、安定したものになります。

デザイン室とは組織の未来を支える知的インフラである

デザインマネジメント論を取り入れることで、
概念的で抽象的だったデザイン思考は、
組織で扱える言語と構造を持ち始めます。

デザイン室とは、
感性と論理をつなぎ、
意味と判断を支える場所。

会社の未来を考えるための、
知的な思考空間なのだと考えています。

デザインマネジメント論を学ぶには、以下の本がおすすめです。
私の母校、立命館大学の先生が書いた本です。

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この記事を書いた人

ジュエリーデザイナー26年
ジュエリー職人4年 CAD1年
ジュエリーブランドディレクター10年
製作が好きで飛び込んだジュエリー業界で様々な経験を積みながら
品があるデザイン、上質といえる技術を模索。
”静寂なる輝き”を極める旅を続けています。

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