なぜヨーロッパでは、デザインが「社会を動かす仕事」になったのか

物をつくる会社でデザイナーとして働きながら、
私は長い間、あることに違和感を抱いてきました。

デザインした商品を販売しているにもかかわらず、
会社のなかでは、デザインが事業の根幹として扱われていない。

デザイナーには結果を求める一方で、必要な情報や判断権限は与えられない。
社外のデザイン会社やコンサルタントには費用を払っても、
社内のデザイナーによる調査、構想、言語化、ブランド設計は
「給与のなかの作業」として処理される。

この問題を考えるなかで、ヨーロッパの企業やデザイン会社では、
少なくとも日本より解決されている部分があるのではないか、と思うようになりました。

デザインによって商品だけでなく、企業や社会、さらには国のイメージまで動かしてきた。

国にとっても、デザインによって「自分たちの文化水準や生活の質」を示す価値があった。
そのため、デザインに関わる人たちの専門性に、時間、費用、権限が与えられてきたのではないか。

少し率直に言えば、

ヨーロッパの国々は、
デザインによって見栄を張る価値を知っていたのではないか

という問いです。

目次

「国が見栄を張る」とは、どういうことか

ここでいう「見栄」は、単なる虚栄ではありません。

国が、自分たちはどのような暮らしをよいと考え、
どのような未来を目指し、どの程度の文化的・技術的水準を持っているのかを、
目に見える形で示すことです。

建築、家具、鉄道、公共空間、グラフィック、服、食器、工芸品。
これらは日常で使われる物であると同時に、
その国の価値観を外へ伝える媒体でもあります。

優れたデザインは、次のようなメッセージを世界に伝えます。

私たちは、機能だけでなく人間の暮らしを考えている。
私たちは、物をつくる技術だけでなく、それをどう使い、どう生きるかを考えている。
私たちは、美しさ、公共性、持続可能性を社会の価値として扱っている。

この意味では、デザインは国家の文化的威信、いわゆるソフトパワーにもなります。

国がデザインによって存在感を示そうとすれば、その表現を担う専門家が必要です。
建築家、プロダクトデザイナー、グラフィックデザイナー、ファッションデザイナー、
工芸家、研究者、キュレーター、デザイン会社などです。

こうした人々は、単に見た目を整える人ではなく、
「国や企業が何を大切にしているか」を可視化する人になります。

英国では、戦後復興のためにデザインが必要とされた

この考え方が分かりやすく表れているのが、英国のDesign Councilです。

Design Councilの公式資料によると、
その前身であるCouncil of Industrial Designは、
第二次世界大戦中の1944年、チャーチル政権下で設立されました。

戦後の厳しい国際競争を見据え、
英国産業が国内外で選ばれる高品質な製品を生み出せるよう、
製品デザインを改善することが目的でした。

つまり国家が、デザインを産業復興の手段として位置づけたのです。

1946年には、ヴィクトリア&アルバート博物館で「Britain Can Make It」展が開催されました。
衣服、家具、事務機器、交通など、英国の優れたデザインと製造を紹介する展覧会です。

その副題は「Good Design and Good Business」。
優れたデザインと優れたビジネスが、同じ方向を向くものとして示されていました。
Design Councilの歴史

ここで重要なのは、国がデザインを「文化の飾り」ではなく、
産業を再建し、輸出競争力を取り戻すための手段として扱ったことです。

デザイナーを善意で優遇したというより、
デザインへ投資しなければ英国産業が国際競争で勝てないと考えた。
そのため、デザインの価値を企業へ伝える国家的な機関が必要になりました。

現在は、商品から公共・環境・社会システムへ

現在のDesign Councilは、自らを英国におけるデザインの国家的推進機関と位置づけています。

その対象は製品だけではありません。
企業の成長、公共サービス、地域、環境、複雑な社会システムまで含まれます。
Design Councilについて

デザインの役割が、物の外観から、社会の仕組みを考えることへ広がっているのです。

これは「デザイナーの地位が高い」というだけの話ではありません。

デザインが、国や社会の問題を解決するために
必要な専門知として認識されているということです。

デザインは、国の理想を見える形にする

ヨーロッパを一括りにすることはできません。
国によって歴史も制度も異なり、
すべての企業がデザインを理解しているわけでもありません。

それでも一部の国では、優れたデザインを生み出すことが、
企業の売上だけでなく、国の文化、産業、暮らしの質を示すことにつながってきました。

「国がデザインによって見栄を張る」という私の仮説は、次のように言い換えられると思います。

国が、自分たちの目指す社会や生活の質を、デザインによって世界へ可視化してきた。

そして、その可視化が産業競争力や国家イメージにつながると理解されたからこそ、
デザインを担う専門家へ投資する仕組みも育ったのではないでしょうか。

次回は、デザインの「見えない仕事」がどのように評価され、
企業のなかで戦略として扱われているのかを、英国とデンマークの資料から考えます。

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この記事を書いた人

ジュエリーデザイナー26年
ジュエリー職人4年 CAD1年
ジュエリーブランドディレクター10年
製作が好きで飛び込んだジュエリー業界で様々な経験を積みながら
品があるデザイン、上質といえる技術を模索。
”静寂なる輝き”を極める旅を続けています。

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