Designing Sensibility|感受性をひらく学び #06_デザインは、人の関係性を変えられる?

悪い事柄や事件や思想の方が、記憶に残り、拡散力があるとされるのに対し、
親切や配慮は、社会の中で見えにくいものですが、
見えにくいからといって、存在しないわけではありません。

誰かが少し道を譲る。

困っている人に気づく。

声をかける。

少し立ち止まる。

自分の行動が、誰かの安心につながる。

そうした小さな行動を、社会の中で見えるものにできたら、人は少しだけ前向きになれるのではないか。

それが前回のテーマでした。

今回は、その先にある問いについて考えてみたいと思います。

目次

デザインは、モノを美しくするだけでなく、人の関係性を変えられるのか。

デザインは、どこまで人に関われるのか
長い間、私はジュエリーデザインに関わってきました。

小さな石の輝き。
金属の線の美しさ。
身につけたときの空気。
手元や胸元に生まれる、ささやかな気配。
ジュエリーは、とても小さな存在です。

けれど、その小さな造形が、人の気持ちを変えることがあります。

自分らしさを思い出す。
少し背筋が伸びる。
大切な記憶に触れる。
自分の中にある美意識を確かめる。
日常の中で、静かに心が動く。

そう考えると、デザインとは単にモノを美しく整えることではありません。

人の心の状態に関わる行為でもあります。

私はこの感覚を、もう少し広い社会の中で考えるようになりました。

デザインは、モノだけでなく、
人の行動や、人と人の関係性にも関わることができるのでは。

その問いが、自分の中で大きくなっていきました。

ジュエリーは、人と自分の関係を変える

ジュエリーは、身につける人のいちばん近くにある造形のひとつです。

服よりも小さく、
建築よりも近く、
言葉や音楽よりも静かに、

その人の身体と日常や日常の積み重ね=ライフスタイルに寄り添います。

ラグジュアリーという産業のルーツにも、
ファッションは、どういう嗜好かという横のグルーピングによるものに対し、
ラグジュアリーは、自分はどの階層に所属しているのか、という縦軸を示すもの、といいます。

だからこそ、ジュエリーは単なる装飾ではなく、
自分と他者、というよりは、自分と自分自身の関係を変えるものになり得ると考えています。

何かを選ぶとき、人は自分の感覚を使います。

これが好き。これは少し違う。

この形に惹かれる。

この石の色を見ると落ち着く。

このリングを着けると、自分の中の何かが整う。

その選択の中には、その人自身の美意識や価値観が表れます。

ジュエリーを選ぶことは、
「私は何を美しいと感じるのか」
「私はどんな自分でありたいのか」
を確かめる行為でもあります。

つまりジュエリーデザインは、

人とモノの関係だけでなく、
人と人の関係を、社会と人の関係を結び直す仕事でもあるのだと思います。

社会デザインは、人と他者の関係を変える

一方で、TCLで考えた社会実装のテーマは、

人と人との関係性に関わるものでした。

困っている人に気づく。
声をかける。
席を譲る。
少し道をあける。
小さな親切が生まれやすい環境をつくる。

そこでは、デザインの対象はジュエリーのようなモノだけではありません。

空間。
言葉。
導線。
サイン。
仕組み。
体験。
人の視線や行動のきっかけ。

そうしたものすべてが、デザインの対象になります。

そして、それらがうまく働くと、
人は他者の存在に気づきやすくなります。

自分だけで完結していた意識が、少し外へひらかれる。

隣にいる人。
同じ空間にいる人。
言葉にはしていないけれど、少し不自由を感じている人。

そうした存在に気づくきっかけをつくることができるなら、
デザインは、人と他者の関係を変える力を持っているのだと思います。

小さな造形も、公共空間も、根にある問いは同じ

ジュエリーと公共空間。

一見すると、まったく別の領域に見えるかもしれません。

片方は、身につける小さなもの。

もう片方は、多くの人が行き交う大きな場所。

けれど、深いところでつながっています。

どちらも、根にある問いは同じです。

人の心は、何によって動くのか。
人は、どのような形や体験に安心するのか。
どんな余白があると、自分を取り戻せるのか。
どんな美しさが、人を少し前向きにするのか。
どんな環境なら、人は他者に気づけるのか。

ジュエリーでは、その問いを小さな造形に込めます。

社会デザインでは、その問いを空間や仕組みに置き換えます。

対象は違っても、

人の感情や行動に向き合うという意味では、
同じ場所から始まっているように感じます。

美しさは、人のふるまいにも宿る

私は、美しさはモノの形だけに宿るものではないと思っています。

誰かが静かに席を譲る姿。
人の流れの中で、少し道をあける動き。
相手を傷つけないように言葉を選ぶこと。
困っている人に、自然に視線を向けること。

必要以上に主張せず、でも確かに支えるふるまい。

そうした人の行動にも、美しさはあります。

それは、派手な美しさではありません。

強く主張する美しさでもありません。

けれど、見た人の心に静かに残る美しさです。

私がジュエリーに求めてきたものも、
実はそうした美しさに近いのかもしれません。

強い刺激ではなく、
静かに、深く、長く心に残るもの。

人のふるまいも、デザインも、ジュエリーも、

本当に心に残るものは、必ずしも大きな声で語られるものではないと思います。

デザインは、感受性を起動させる装置になる

よいデザインは、人に何かを押しつけるものではありません。

こちらを見なさい。
こう感じなさい。
こう行動しなさい。
そう強く命令するものではなく、

人の内側にある感覚をそっと起動させるものだと思います。

あ、きれいだな。
少し気になるな。
なぜか心が落ち着く。
あの人は困っているのかもしれない。
自分にも何かできるかもしれない。

そうした小さな感覚が生まれるきっかけをつくること。
それが、デザインの大きな力だと思います。

ジュエリーは、身につける人の感受性を起動させることができます。
公共空間のデザインは、その場所にいる人の感受性を起動させることができます。
教育や言葉のデザインは、自分や社会へのまなざしを変えることができます。

つまり、デザインは感受性を社会の中で動かす装置になりえると考えます。

形をつくることは、関係性をつくること

デザインというと、形をつくることだと思われがちです。

もちろん、形は大切です。

美しい形、使いやすい形、心に残る形。

それらがなければ、デザインは人に届きません。

けれど、形をつくることは、そこで終わりではありません。

その形によって、人がどう感じるか。

その形によって、人がどう行動するか。

その形によって、人と人の間にどんな空気が生まれるか。

そこまで含めて考えると、

デザインとは、形を通して関係性をつくることなのだと思います。

ジュエリーなら、

身につける人と自分自身の関係。
身につける人と周囲の人との関係。
身につける人と記憶や時間との関係。

公共空間なら、

人と人の距離。
人と街の関係。
人と社会の関わり方。

デザインは、目に見える形を通して、
目に見えにくい関係性を整えていく仕事でもあります。

社会に必要なのは、正しさだけではない

社会課題を考えるとき、私たちはつい正しさを語りたくなります。

こうあるべき。
こうしなければならない。
これが正しい行動です。

もちろん、正しさは必要です。

でも、正しさだけでは人の心は動きにくいことがあります。

人は、わかっていても正しいと言われただけでは、なかなか行動できません。
恥ずかしさや不安、周囲の空気、面倒くささ、迷いがあるからです。

だからこそ、社会に実装するためには、
正しさだけでなく、感覚に届くデザインが必要なのだと思います。

美しいから、少し立ち止まる。
心地よいから、自然に参加したくなる。
やわらかい空気があるから、声をかけやすくなる。

自分の行動が少し素敵なものに感じられるから、またやってみたくなる。

人の心が動くには、

正しさと同時に、美しさや心地よさが必要なのだと思います。

私の仕事は、モノから関係性へ広がっていく

TCLでの学びを通して、私は自分の仕事の意味を少し広く捉えるようになりました。

私はジュエリーデザイナーです。

けれど、ただ美しいジュエリーをつくるだけではなく、
人が自分の感覚を取り戻すことに関わりたい。

自分の「好き」や「美しい」を信じられること。

自分の違和感を大切にできること。

他者の存在に気づけること。

社会の中に、静かなやさしさが生まれること。

そうしたことに、デザインを通して関わっていきたいと思っています。

ジュエリーから、教育へ。
教育から、社会の仕組みへ。
個人の感受性から、人と人の関係性へ。

私の中で、デザインの対象は少しずつ広がっています。

けれど、その中心にあるものは変わりません。

「人の心は、どのような形や体験によって動くのか。」
「そして、その心の動きは、人の幸せや社会の豊かさにどうつながるのか。」

その問いを、これからも持ち続けたいと思っています。

デザインは、静かに社会を変える力を持っている

社会を変えるデザインというと、

大きなプロジェクトや、革新的なシステムを想像するかもしれません。

けれど私は、もっと静かな変化にも価値があると思っています。

誰かが、自分の感覚を信じられるようになる。
誰かが、少し前向きな気持ちになる。
誰かが、隣の人の存在に気づく。
誰かが、小さなやさしさを行動に移す。

そのような変化は、すぐには数字にならないかもしれません。

けれど、人の関係性や社会の空気を少しずつ変えていく力があります。

デザインは、モノを美しくするだけではない。

人の心を動かし、行動を変え、関係性を結び直すことができる。

ジュエリーという小さな世界で学んできたことを、
これからは社会の中にもひらいていきたい。

私にとっての新しいデザインの可能性です。

次回は、

「感受性を高めることは、自分らしく生きる力になる」

というテーマで書いていきます。

感受性は、繊細さや傷つきやすさだけではありません。
自分の「好き」や違和感を受け取り、自分の美意識で人生を選んでいくための力でもあります。
感受性を高めることが、なぜ自分らしく生きる力につながるのか。

次回は、そのことについて考えていきます。

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この記事を書いた人

ジュエリーデザイナー26年
ジュエリー職人4年 CAD1年
ジュエリーブランドディレクター10年
製作が好きで飛び込んだジュエリー業界で様々な経験を積みながら
品があるデザイン、上質といえる技術を模索。
”静寂なる輝き”を極める旅を続けています。

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